体力・栄養・免疫学雑誌 第18巻 第3号 2008年 目次

[巻頭言]

研究の発展を望んで

高橋一平 ・・・194


[ORIGINAL ARTICLE]

Characteristics and changes of mental health among workers in Tsukuba Research Park City

ーFrom a Large-Scale 5-Year Cross-Sectional Studyー

Yusuke TOMOTSUNE, Shinichiro SASAHARA,Satoshi YOSHINO, Kazuya USAMI, Mikiko HAYASHI,

Tadahiro UMEDA, Ichiyo MATSUZAKI ・・・195-204


Association between perceptions of post-retirement and mental health status of middle-aged workers 

in Tsukuba Research Park City

Kazuya USAMI, Shinichiro SASAHARA, Satoshi YOSHINO, Yusuke TOMOTSUNE, Mikiko HAYASHI,

Ichiyo MATSUZAKI ・・・205-212


[原著]

体位血圧反射法の判定基準に関する検討

小山内弘和,野井真吾,伊藤孝 ・・・213-221


限界的長時間労働の検討に関する研究 -研修医の労働時間と睡眠時間とメンタルヘルス指標の関連を通して-

笹原信一朗,吉野聡,羽岡健史,中村明澄, 前野哲博, 松崎一葉 ・・・222-226


[倉掛重精先生追悼文集]

菅原和夫 倉掛先生の思い出  227-228

町田和彦 倉掛重精先生追悼文   229

岡村典慶 倉掛重精大分大学名誉教授を偲んで  230-231

中路重之 倉掛先生を偲んで  232-234




《巻頭言》 研究の発展を望んで

弘前大学大学院医学研究科社会医学講座 高橋一平


 りんごは、青森県が全国の生産量の半分以上を占め、特に岩木山の麓にある弘前を中心とした地域で多く生産されています。

 「奇跡のりんご」というのを知っているでしょうか。2006年、NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」でリンゴ農家・木村秋則さんについて(第35回:2006年12月7日に「奇跡のりんごは 愛で育てる―農家・木村秋則―」)放送され、大反響を呼びました。木村さんは青森県中津軽郡岩木町(現弘前市)に在住し、これまで不可能と思われていた「農薬も肥料も使わず、りんごを実らせる」ことを可能にしたのです。

 りんごは農薬で作るといわれるくらい、きめ細かな農薬散布を必要とします。そして、りんご農家にとって農薬を使わなければりんごの栽培ができないというのは、常識でした。農作業のできない冬の時期に、たまたま「自然農法」という本に出会ったのが事の始まりでした。そこには、農薬も肥料も使わずに米を作り、しかも農薬を使う現代農業なみの収穫をあげていることが書かれていました。木村さんはこの事実に強い刺激を受け、収穫までに十数回の農薬散布を必要とするりんご栽培に疑問を抱き、りんごの無農薬栽培に取り組みだしたのです。

 7年間は害虫と病気との闘いであり、りんごの収穫は無く、様々な事を試してはその結果を書き留める生活が続きました。このため、家族の生活は困窮し、子どもの学用品すら満足に買ってあげられないようになりました。限界を感じた木村さんは自らの命を絶とうと思い、岩木山に登りました。そこで、山奥の木々が農薬によって保護されていないにもかかわらず生き生きと葉を繁らせている秘密に気づいたのです。これまでりんごの木の見える部分だけを考えてきた木村さんが、目に見えないりんごの木の地下、すなわち「土」にそのヒントを見つけた瞬間でした。これにより、8年目からりんごの花が咲くようになり、徐々に実がなるようになったのです。

 研究の目的は、これまでの研究で明らかにされていない、新しい事実や解釈の発見と考えられます。そして、研究とは疑問を抱き、実験、観察、調査などにより物事についての事実を深く追求することとされています。多くの著名な研究者は、人や情報との偶然の出会いが研究の切っ掛けとなることや、行き詰まった環境でふと、あることに気づき、ブレイクスルーに繋がることを語っています。

 体力・栄養・免疫学会は、その名前からも解かるように、研究テーマが人間の健康に関する広範な領域に及びます。現在、日本は少子高齢化により人口減少社会になってきています。このような時代、疾病を未然に防ぎ、健康増進を目的とする予防医学は非常に重要性と考えられます。すなわち、本学会の研究テーマは、社会的にも必要性が増していると考えられます。皆様の今後の研究の発展・増進に期待し、最終的には健康という「奇跡のりんご」が実ることを願っています。

参考文献:石川拓治「奇跡のリンゴ」、幻冬舎、2008